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こみねもすなるだいありー

全然何にも怖くない

他人に期待する技術 - 『百万円と苦虫女』


百万円と苦虫女


「100万円貯まったら違う街へ引っ越す」というルールで、街から街へ旅をする女性の話。人生ゲームのようだなと思った。100万円貯まるまでが1ターンで、ターンが回ってきたらルーレットを回す。そういうゲームのルールを作って生きているんだなと思ったけれど、なんかそれもちょっと違うかも、と、見終わってから思った。

「他人に期待する」ことには、技術が要ると思う。誰かを好きになることも、家族と一緒に暮らすことも、友達と付き合うことも、全て「他人に期待する」ことだと思う。この人は自分にとって何かよいことをもたらしてくれるだろうと思うことは、みんな自然にやっていることのように見えて、実はそうでない。習わなければできないことだと思う。それをし続けなければ、忘れることだと思う。鈴子はひょんなことすぎるきっかけでその「他人に期待する」技術のメモリーをまっさらにせざるを得なかった。就職が決まらなかったとき。知らない男と共同生活せねばならなくなったとき。その男にかわいい猫を殺されたとき。生まれた街を歩いて嘲笑を受けたとき。少しずつ鈴子の「他人に期待する」メモリーが破壊されていき、そして全部が消えた。

自分だけを信じて生き続けることは苦しく、そして、それが本質なのかもしれないと思った。親に愛され、友達を作り、恋人に大切にされる人間が、自分だけを信じている人間とガチンコタイマンマッチをすれば、後者が勝つんじゃないかと思う。強く生きるとはそういうことなのかもしれない。でも、きっと別に「強く生きる」必要なんてない。「よりよく生きる」必要もないし「うまく生きる」必要もない。鈴子が本当の意味でそう思えたとき、彼女はその街で、100万円の旅を終わりにするんだろうなと思う。


2017/05/05