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こみねもすなるだいありー

全然何にも怖くない

3月のライオン(前編)-香車は後ろへ戻れない-

映画


映画『3月のライオン』予告編②

とにかく幸田香子!!という感じの前編で震えた。原作を読んでも香子はとっても好きなキャラクターで、もっともっと彼女の内幕や自暴自棄なふるまいを見たいと思っていたけれど、紙の上から立ち上がってきた有村架純演じる香子が、まさにライオンのようだった。明るいキャラメル色の巻き髪をバサバサ振り乱しながら泣きわめいたり寂し気につぶやいたり、手負いの獣のようでよかった。

とても香子に感情移入して映画を見た。原作の漫画を読んでいると、川本家はあったかいなぁとか零くんは本当に強いなぁとか思うんだけれど、映画を見ていたら、川本家にはキモチワルイという感情が、零には「あなたはそうやって進んでいくのかもしれないけどね」という感情が強くにじみ出てきた。初めて会った、道端で酔って倒れていた男の子を家で寝かせて鍵を渡してご飯を食べさせて「おねいちゃんはガリガリな子をフクフクにするのが好きなの」と言っている川本家が本当に気持ち悪くて、なんだこのお化けみたいな家庭はと思ってぞくぞくしてしまった。3Dの川本家はびっくりするくらい空虚で、私には誰かに施しを与えることで、ポカンと口を開けていることでなんとか家族としての形を保っているように見えた。初詣、後藤と腕を組んだ香子が「今度はこの人たちなんだ」「得意だもんね、不幸ぶって人んちに踏み込んで、家族をめちゃめちゃに壊すのが」と言い放つシーン、「香子はヒドイ!」と思うべきなのかもしれないけど、「いや香子の言うとおりなのでは……」と思ってしまった。自分が香子だったら同じことを言っただろうし、家を出て他の人の家で幸せそうに笑っている零を見たらギタギタにぶち壊したくなるだろうし、零が暖かい家庭の仲間として暮らしながら将棋の世界ではプロとして戦っていくという夢物語のような現実を認めたくないだろうと思った。その横で驚いた顔をしている川本家の人たちにも心底腹が立つだろうと思った。

原作で、幸田家のお母さんは「零と幸田プロは同じ人種」のような発言をしたことがあるけれど、本当にそうで、零も幸田プロもちょっと普通の人間ではそこまでできないだろうということをする。それが強さだと言われたらそこまでなんだけど、その強さにはじかれた人たちは軌道を乱し、きりもみしながら地面に向かって落ちていく。
香子と弟の歩は、おそらく幸田プロに、将棋にちなんだ名前をつけられたんだろうと思う。「香車」と「歩」からとって、キョウコとアユム。そうして将棋の家の子供として生まれて、将棋を教えられて、強くなることを良しとして育ち、父親が連れてきた内弟子の男の子と激しくぶつかりながら大きくなっていく。将棋をする人間として育っていく。内弟子の方が棋士としての将来を期待されていると感じ取りながらも、戦うことを止めずに走る。そしてある日、その父に「将棋をやめなさい」と言われる。自分に将棋の駒の名前をつけた父にそう言われることの恐怖を、少し考えただけで手が冷たくなる。「辞めたくない」と食い下がる香子に、「将棋以外の人生もあるさ」と言い放った幸田プロを、勝負の世界に浸かった、私たちとは違う種類の人間だと思わざるを得ない。香子が自分で壁にぶち当たり、粉々になり、私はここまでなんだと諦めるのを見守った方が、どんなによかったかと思う。それで香子が人生の時間を無駄にすることになったとしても、香子が愚かに棋士を目指すことを諦めず、どうしようもない状況に立たされたとしても。幸田プロは将棋以外の人生なんて考えもしない人間で、そんな父親に「将棋以外の人生を歩みなさい」と言われたところで、ただ人生の指針をもぎ取られたような、そんな気持ちになるのは当たり前なんじゃないか。

将棋をして強くなることが当たり前だった女の子が、それを全部なくす。香子の「香」は「香車」の「香」。まっすぐ前にどこまでも進む、後戻りのできない駒の名前。ひどすぎる。私は香子が愛おしくてかわいそうで痛くてたまらなかった。どうしていいかわからない香子が木の葉のようにただよっているのが苦しかった。零の前に気まぐれにあらわれてひっかきまわしていく、それは全部香子の「生きたい」の叫びのように思う。愛して生きたい。もっと楽に生きたい。自分がここにいたいと思える場所で生きたい。香子はまだその何もわからない。そんな苦しさを自分もなんとなく知っているような気がして、それでまた涙が出た。

そういう「かわいそかわいさ」みたいなものを除いても、有村架純ちゃんの幸田香子はビジュアルとして美しくてキュンとした。9センチくらいはあるんじゃないかと思う黒いピンヒールを履いて、鳥のように朝の駅前を歩いていく香子のシーンがあるのだけど、そこを何百回も見たい。あと架純ちゃんがSK-2のプロモーションをしている関係か、後藤に頼まれて香子が買う化粧品がSK-2だった。原作ではこのとき買ってる化粧品はランコムっぽいんだけど、後藤はそのSK-2を入院中の奥さんの手に塗っている……こわい……フタが赤いジャータイプのクリームだったから多分ステムパワーリッチクリームかスキンシグネチャーメルティングリッチクリーム??定価15000円くらいと18500円くらい……それを手に塗ってもらえる奥さんヤバイ愛されてる。

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