こみねもすなるだいありー

全然何にも怖くない

車を買わねばならなくなって

大学を卒業して地元へ帰ってきた。
地元で就職するつもりではなかったけれど、諸々が重なり、地元の職場で働くことになった。私は地元へは帰らないから免許は取らなくて大丈夫っしょ~お金もったいないし~と、大学在学中に運転免許を取っていなかった。地元では車がないと始まらない。仕事へ行くのにも、徒歩はもちろん自転車でもちょっと厳しい距離。電車やバスは通勤に使える時間帯のものはない。毎日家族に送り迎えしてもらうわけにもいかず、働き始めてすぐ自動車教習所に通うことになった。もちろん「自分の車を買う」ということが大前提で。

終業後すぐ教習所へ行き、夜まで授業や教習を受けるのはじわじわとつらかった。つらい私を笑いたい人はこちらを読むといいと思う。↓

自動車教習がつらいことを誰か聞いてくれ - こみねもすなるだいありー

7月末やっと免許を取得して、晴れてドライバーの仲間入りとなった。

免許が取れたらハイ次、という感じで、どの車に乗るのか早く決めなさいね、と両親にせかされた。免許を持っているだけで概念上の車を運転して仕事へ行けるわけではないから当たり前だ。母と父はそれぞれ一台ずつ車を所有しているけれど、それぞれ働いているため日中私に車を貸せない。1人1台車があるのが当たり前なのは、田舎あるあるのあるある中のあるある。

率直に言うと、私は車なんて欲しくなかった。先述したブログで力いっぱい書いたとおり、私は車の運転が好きではなかったし、そもそも車が欲しい! と思ったことは人生で一度もなかった。

嫌々ながらも、車探しを始めた。まずは中古車から見て回ることにして、週末はカーディーラーや中古車販売店を巡った。私は値段しか見ていなかった。これは30万、これは100万、これは……といった具合に、自分が好きなデザインかどうか、乗りやすさはどうかなどには、全くピントを合わせなかった。合わせたくなかった。そもそも車を買うことで、田舎に屈服(なんてダサイ表現なんだとは思うけれど、それ以外に適当な言葉が見当たらない)するのが本当に嫌だった。
私は5分おきに滑り込んでくる通勤電車で毎朝仕事へ行きたかった。ストレス指数が振り切れていようがそんなのはどうでもよかった。ここに帰ってきたくなかった気持ちが爆発して、車を選ぶために時間を使うのが本当に苦痛で仕方がなかった。

父がお世話になっているカーディーラーさんに会うことになり、その日もどんよりしながら店舗へ行った。どの車を見ても、欲しいと思えない。父が展示中の車を見たいというので、商談スペースに私とディーラーさんだけが残った。

「どんな車にしたいですか?乗りやすいのは軽自動車ですか?」ディーラーさんがカタログを指して色々と説明をしてくれるけれど、生返事と相槌しか返せない。出されたホットコーヒーを苦し紛れに飲みつつ、早くお父さん帰ってこないかなぁと思っていた。1人では場が持たない。

ディーラーさんが、ふと「あんまり車、欲しくないですか?」とつぶやいた。グサッと刺さり、思わず「はい」と言ってしまった。「車に興味がないですし、車にも乗りたくないです」と言ってしまうと、なんだかスッキリした気持ちにすらなった。

「車は車じゃないですよ。車はね、部屋だから」ディーラーさんが言った。

「車は移動手段ですけど、それだけじゃなくて、自分が好きに使える部屋でもあるんですよ。例えば1人になりたいとき、ご実家だと難しいでしょ?このあたりだと喫茶店も少ないし。そういうとき、車に乗ればいいんですよ。車に乗れば、1人になれますよ」

父が帰ってきて、その話はそこでおしまいになった。私はその話をもっともっと聞いていたかった。
実家へ帰ってきて、1人になりたい瞬間はたくさんあった。そのたびどうしようもなく居場所がなくて、家族のことは好きなのに怒りを冷ませず悲しかった。せめて1人で音楽を聞いたり、人目を気にせず泣いたりできる場所が欲しかった。それが車なんて思いもしなかった。全然興味のなかった車を、初めて「欲しい」と思った。

絶対にこの人から車を買おうと決めた。


それからは、比較的自分の意志を持って車選びができたんじゃないかと思う。とにかく「車の中にいて心地いいかどうか」と「自分の身の丈にあった車か」というポイントを大事にした。一括で自動車を買えるほどの貯蓄がなかったので、月々支払いをしていくことになる。なければ生活できないものだから、ずっと手放さずにすむ方法を相談した。

悩んだ結果、白い軽自動車を新車で購入した。人生で一番高い買い物に、ハンコを捺すとき、手汗がものすごかった。


https://twitter.com/urahara0811/status/785010045226319872

↑納車してすぐお祓いに行きました。


まだ乗り始めたばかりだけれど、ディーラーさんが言っていた「車は部屋」というのが、めちゃくちゃ理解できた。とにかく、1人になれる瞬間は車に乗っているときくらいしかないので、静かさが本当に心地いい。車の運転をする緊張感はまだあるけど、エンジンを止めて車の中で座っていると落ち着く。たまに車を駐車場に停めて、しばらく考え事をするようにもなった。

あと当たり前だけれど、好きなときに映画を観に行ったり、図書館へ行けるのがとても嬉しい。ガソリンが入っていて自分の都合さえつけば、好きな時に好きなところへ行ける。

こんなに悩んだ買い物は初めてだった。できれば身軽でいたい。車がなくて生活できるなら、それが一番よかった。今でも車そのものに興味はないし、これから先強い興味を持つこともないだろうと思う。高級車を見て「お高いんでしょう?」と思うことはあっても、乗りたいとは思わないし欲しいとも思わない。

でも、車がなかったら、エンジンを停めたあと、あのシーンとし過ぎて耳鳴りがしそうな静かさは味わえなかっただろうなと思うし、夜運転席で体育座りして宇宙に漂っている空想をすることもなかっただろうなと思う。あってよかったな、と思う自分がなんか悔しい。

週末は、1人でどこかへ行きたい。



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