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こみねもすなるだいありー

全然何にも怖くない

いい子いい子されたくて、冬。 (入江喜和さん著『たそがれたかこ』)

人が髪の毛をさわるのは、自分を「いい子いい子」してほしいから、だと聞いたことがある。

ふいに髪の毛をさわってしまうとき、たまにそれを思い出してギクッとする。その豆知識を周りの人が知っていて「こいついい子いい子されてーんだな」と思われたら、なんかヤダ。

『たそがれたかこ』の主人公、たかこさんは、45歳。
バリバリのキャリアウーマンとかじゃない。なんか、ゆるい人。でも毎日がんばってる。今までずっとゆるく、ゆるくつらいことを受け止めて、ゆるく、ゆるくがんばり続けてきた人。ある日、ラジオから流れてきた若手バンドのボーカルくんに恋をして、ファンになって、CDを買ったり、ライブに行ってみたいと思ったり、髪型を変えてみたり。新しいときめきを得て、ちょっと人生が動いたかも? と思ったりした矢先に、新しい「つらいこと」が起こったりして。

そんなとき、出会ったばかりの飯屋の店主(色男)に、「たかこさんは、もうそろそろ自分を"いい子いい子"していい年頃だな~」と言われる。

自分をいい子いい子するのはすごく難しいんじゃないかなあ、と私は思う。自分が自分のことを一番わかっているという人もいるけれど、自分のことなんて自分が一番わかっていないんじゃないかと思う。心の中のこと限定で。私はこれを食べるとおなかを壊すんだ、とか、私は気圧のせいで頭が痛くなるんだ、ということはわかるけど、私はこういうときこういう気持ちになるんだ、とか、私はこういう人が好きなんだ、とかいうのは、わりと裏切られる。それは私は小娘だからなのか? いや、もう少し歳が上の人とかでも、そうだと思うんですが、どうでしょう。たまに、こんなこと自分が感じると思ってもみなかったことを思ったり、言うはずじゃなかったことをパッと言ったりするでしょ。しますよね?
話がそれた。だから、自分が自分のことをわかるっていうことはとっても難しい。たかこさんのようにつらいことをゆるくゆるくずーっと受け止め続けた人でも、予想外の出来事に心を塗り替えられたリしてしまう。今までハマるなんて思ってもみなかった若手バンドのボーカルくんに、ハマってしまったり。自分のことはわからない。突然変わってしまった自分を、受け止めて、それでもいいんだよ、変わってもいいんだよ、私は変わったんだね、いい子いい子、いい子いい子……なんて到底できない。

たかこさんは夢を見る。その夢は、たかこさんがハマっているバンドのボーカルくんが、どこか広いところ(草原みたいな、開けたところ)で、アルバムの曲を弾き語ってくれる夢。たかこさんはそれを聞いたあと、ボーカルくんにぽつりぽつりと打ち明ける。「あたしね ママにひどいこと言っちゃったの」「娘にも きらわれちゃったみたいで」
ボーカルくんはそっと手をのばして、たかこさんの頭をいい子いい子してくれる。「オレ知ってる いい子だよたかこは」

その夢を見ているたかこさんの寝顔は、砂糖入れすぎた玉子焼きみたいな寝顔だった。

何十年生きてきた人でも、自分じゃなくて誰かにいい子いい子してほしいことはある。いい子いい子してほしい人はたくさんいる。自分で自分をいい子いい子するよりも、誰かに、もしかなうならあこがれのあの人にいい子いい子されて、認められたい。それは私だけじゃない。少なくとも、たかこさんはそうだ。

今後ふと髪の毛をさわってしまったとしても、ドギマギせずにいよう。「いい子いい子されたいですけど、何か?」くらいに思っておこう。だっていい子いい子されたいよ。されたいわ。文句あんのか。まぁそもそも髪の毛をさわる=いい子いい子してほしい、なんていうのは、迷信かもしれないし。

何が言いたいかというと、入江喜和さん『たそがれたかこ』が面白いよって話です。多分既刊6巻までです。今1巻がkindleで無料配信中です。