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こみねもすなるだいありー

全然何にも怖くない

あの人と短歌 -神山智洋さん-

あめ玉をすぐかみ砕いてしまうくせ きみも世界を救えなかった

彼女を探し歩いて、夜の街を走り回ってへとへとになったころ、白いセーターの背中がぽつりと公園に見えた。息をのんで、あわてて駆け寄る。ブランコにすわって、だらりと腕と足を伸ばしている姿が、綿のあんまり詰まっていないぬいぐるみのようにも見える。肩をそっとつかんでさすると、セーターに包まれた腕がひんやり冷えていた。自分が着ていたジャンバーを脱いで、着せる。自分が巻いていたマフラーを取って、巻いてやる。冷たい風が額の汗から熱を奪う。自分のことはどうでもよかった。今にも死にそうなちいさな動物を延命させるような気持ちだった。
ジャンバーもマフラーも着せてやって、もう何もあたためてやれるものがない。ふとポケットをさぐると、小さなあめ玉が出てきた。街灯でチラシを配るアルバイトをしたとき、一緒に配っていたものだった。チラシはたくさん余り、あめ玉もたくさん余ったため、持って帰ったうちの一つ。味も知らないそれを、袋から出して指でつまんで、口元に持っていく。彼女はなんの疑いもなくそれを口にふくんで、すぐに音を立てて噛み砕き始めた。がり、がりりという音が、静まり返った公園に響く。もしかしたらこれは、彼女の世界が砕かれる音なのかもしれない、と、大真面目に思った。口の中から響くくぐもった音は、しばらくして止んだ。世界は壊れてしまった。彼女の世界は、彼女自身によって砕かれて、救われることはなかった。うつむいたままの彼女はそっと足を突っ張って、ブランコを揺らし始める。泣いていることには気づいていた。揺れる彼女を見つめる。走り回って燃えた体の中心に、彼女の居場所があることを、猛烈に伝えたかった。



(短歌をよむときに、ショートムービーを撮るみたいによんでいるなと思うことがあって、誰かのことを考えながら短歌をよむときは特にそうだなと思っていて、短歌のそばにそのショートムービーのキャプションを添えてみました。フィクションです。)