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こみねもすなるだいありー

全然何にも怖くない

小瀧望くん主演「MORSE」の幕が開いた

アイドル ジャニーズ

夏の真ん中、7月の終わりに、しんしんと降る雪のしらせが届いた。

その日19歳の誕生日を迎えたばかりの男の子が、その雪を舞台で全身に浴びると聞いて、私は深夜にぼーっとスマートフォンの画面を見つめた。イメージがなかなか湧かなかった。彼に夏のひまわりや、春のあたたかい風のイメージはあれど、冬、たっぷり感情をふくんだ雪のイメージはなかった。そのギャップを自分の中で埋められなくて、しばらく不思議な気持ちがしていた。

稽古をしているという話を雑誌のインタビューで見ても、ラジオで聞いても、あまり実感はなかった。小瀧くんが舞台。しかも主演。しかも原作付き。原作は「スウェーデンでベストセラーを記録したヴァンパイア・ホラー」。繋がらない情報がとっちらかっていて、ひたすらドキドキしていた。小瀧くんを中心に応援しているファンはもっとドキドキしていたはずだ。
果たして「外」の人間、演技を主な生業としている人たちに、彼はどう受け止められるのだろう?

共演者は皆小瀧くんより年上だ。役者としてのキャリアもある。小瀧くんが劣るのでは、と思ったわけではないし、ふさわしくないと思ったわけでもない。ただ、今まで全く違う「アイドル」という畑にいた小瀧くんへの「座長」という肩書きに、なぜか私が緊張した。彼が属するジャニーズWESTのメンバーも、誰も単独主演、座長を張ったことはない。そこへ彼は進もうとしている。

私は小瀧くんのことをいいな、と思う。尊敬もする。うらやましくも思う。人間としてものすごく素直だ。見ていると気持ちがいい。そんな彼がもし変わるのであれば、変わる瞬間を見てみたいと思った。大きな桃色の芍薬が咲いていて、その株がもうひとつ付けた蕾が開こうとしている。また大きく咲くんだろうか。私はそんな風に思いながら、チケットを手配した。


そして11月13日。とうとう初日の幕が開く日が来た。

朝から小瀧くんのファンも、ジャニーズWESTのファンも、ジャニーズWESTに所属するメンバーのファンも、そわそわとしているようだった。私も例に漏れずそうだった。
彼はどういう気持ちで座長をつとめるのだろう、と考えていた。


その日、舞台の幕が開く前。共演者の方がTwitterでひとこと呟いた。


短いつぶやき。けれど私は感動していた。感動というより、強烈に小瀧くんのことを思い出していた。


グループ最年少。甘えん坊で弟キャラのイメージが強い。そんな小瀧くんが、単独主演を張り、座長という看板を渡される。一人で「外」へ出て、今まで演じたこともない脚本に挑む。周りは自分よりキャリアのある共演者ばかり。
きっと甘えん坊ではいられない。気分屋でもいられない。カンパニーの雰囲気を作るのは小瀧くんで、舞台がどう評価されるかという一端も、彼が背負うことになる。

「座長についていくよ」という言葉。小瀧くんは不安だったかもしれない。いろいろなことを考えただろう。けれど、先輩俳優の一人が、小瀧くんについていくことを明るく語っている。座長としてしっかり小瀧くんを立ててくれている。そのおかげで小瀧くんは、「開く」ことができるのかもしれない。みんなが信じてくれているからやるしかないというシチュエーションが、小瀧くんにまわって来た。

立場が人をつくるという言葉がある。それに尽きるのかもしれない。彼は支えられているけれど、一人の俳優として、自分自身という「人」を作ろうとしている。座長という言葉をよいしょと背負って、雪の積もった道を歩こうとしている。周りがそれを見て、「座長についていくよ」と口にする。それがものすごくまぶしい。


大胆不敵だ。語彙も豊富だし、感受性もうらやましいくらいにみずみずしくて強い。小瀧くんは間違いなく、多くの人にとって、「特別」だと思われるにふさわしい男の子だ。
初日の朝、周りの小瀧くんのファンは、皆祈っていた。どうか無事に最後まで演じきれますように。どうか怪我なく、どうか、どうか。私も同じ気持ちだったし、同じように祈っていた。どうか彼が望んだかたちで、蕾を開かせることができますように。春でなくとも。厳しい冬の大地でも。

手帳に挟んだチケットを切ってもらうのがすごく楽しみだ。がんばれ、座長。


MORSE〈上〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)

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